プロ野球 セイバーメトリクスでみた最強ピッチャー[BABIP:2015セ・リーグ編]

この投稿ではセイバーメトリクスで用いられる『BABIP』という指標について紹介し、2015セ・リーグの投手成績をもと以下についてコメントしたいと思います。

・BABIPの観点から優れた投手は?
・守備力の良い/悪いチームは?
・守りやすい/にくい球場は?

BABIPとは?

[Batting Average on Balls In Play]の略で、『バビップ』と読みます。次の式で計算します

BABIP=(安打数-本塁打数)/(打数-本塁打数-三振数)
※分母に犠飛を足す定義もあり

要はボールインプレーとなったときに、ヒットになる確率ということです。本塁打、三振が分母から引かれているのは、ボールインプレーの状況を想定しています。
wikipediaにはBABIPについて以下のとおりの記述があります。

長期間でのBABIPの数値は投手のタイプに関わらずほぼ差がないことが証明されており、平均値(年代によって差はあるが、約.300前後を推移)を大きく外れた場合は運や味方野手の守備力が作用していると考えられる。

BABIPに関する要素の内訳は運が44%、投球能力が28%、守備力が17%、球場が11%

この投稿では、2015年セ・リーグの投手成績を元に、BABIPの観点から投球能力が優れていた、あるいは、運が良かった選手を調べてみたいと思います。

BABIP算出結果

2015セ・リーグ投手成績をもとに、BABIPを計算してみました(規定投球回数に達した選手が対象。DeNAの選手は誰も該当せず)。

BABIP1

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上表の結果から以下の内容を読み取ることができます。

・防御率上位選手は、BABIPが低い傾向がある。
・阪神の選手のBABIPが高い傾向がある。

ここで次のような疑問が沸いてきました。

阪神の投手のBABIPが高いのはなぜだろう?『守備力』なのか『球場』なのか、はたまた、『投球能力』なのか?

そこで、分析によってこれを確かめることにしました。

利用したデータと分析方法

以下のURLから、投手の球場別個人成績を持ってきて利用しました。

※以降、分析の細かい設定等ですので読み飛ばしていただいて構いません。利用したデータのイメージは以下のとおり。

BABIP4

・『被安打数』が被説明変数
・『打席数』、『球場』、『チーム』が説明変数
・ポアソン回帰。リンク関数はlog(フリーソフト『R』を用いる)。

チーム守備力と球場の偏りは?

前述の設定で回帰分析した結果は、以下のとおりでした。

BABIP2

「推計値」の数字がプラスのものについては、BABIPが高くなる(ボールインプレー時の安打数が多くなる)、数字がマイナスのものについてはBABIPが低くなる(安打数が少なくなる)傾向があると読み取ることができます。有意水準P値が5%以下になっているところを中心に見ていきましょう。

水色の網掛け部分はチーム守備力に関する部分です。ここの数値がプラスで大きいほど守備力が低いと解釈できます。P値ともあわせてみると『T:阪神』のみP値が5%以下となり、推計値は『0.2013』で、阪神の守備力が有意に低い(たまたまではない)ことが確認できました。

オレンジ色の網掛け部分は、球場に関する部分で、有意な傾向(P値が5%以下)が確認できたのは『東京ドーム』で推計値は『0.5318』でした。東京ドームは”守りにくい”ということになります。

球場についても推計値を参考までにみてみると(P値が5%を超えているため「たまたま」かもしれない)、地方球場は推計値がマイナスとなっているケースが多く見られました。「狭いから守りやすい」ということでしょうか。なお、狭い球場はホームランが出やすいですが、BABIPには影響はありません。あくまでもボールインプレー時に安打となる確率です。

BABIPの観点から『投球能力』が優れた選手は?

先ほど求めたBABIP推計値と、実際のBABIPとの差は『投球能力』あるいは『運』と解釈することができます。以下に、BABIP推計値と実績値の散布図を示し、表でBABIPの推計値と実績値の差を示します。

BABIP3
BABIP5

上の結果から、最も『投球能力』(+『運』)が良かった選手(表の『②-①』が最も小さかった選手)は、藤浪晋太郎選手であることが分かります。
彼は守備力の劣るチーム(阪神)にいながら、さらに守りにくい球場である『東京ドーム』での登板が多かったため、BABIP推計値が14選手中最高の『0.360』でした。そんな厳しい(BABIPが高くなりがちな)状況の中、BABIP実績値は『0.308』で、優れた成績を残したといえます。

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逆に、黒田選手や能見選手はBABIP推計値に比べて実績値が高いことが分かります。これが『運』によるものであれば来季はまたこの数値が良化するでしょうが、『投球能力』の衰えによるものであれば活躍するのは難しいのかもしれません(実際、投球コース別にBABIPに差が出ることが知られている)。

まとめ

分析の結果から以下の傾向を確認することができました。

・2015年の阪神は守備力が低かった
・東京ドームは守りにくい球場
・球場とチーム守備力の要素を除いて、BABIPの観点からみると最優秀選手は阪神の藤浪晋太郎

機会があればパ・リーグ編もやってみます。